Last Update: 1999/01/02  

99/01/01発行:「ゴミネット通信」46号より

海部・津島地域のごみ処理
   ――これまでの経過と今後――         加藤 泰子
 
《地元反対運動と判決》
 生活ネットワーク「こっとん」では、11月3日に「ごみ分別が始まった理由」というテーマで第1回学習会を行い、中京大学の中川武夫教授の話を聞きました。
 海部、津島地域でごみの分別収集が始まったのは、15年以上前のことです。そのきっかけとなったのは、清掃工場を巡る裁判でした。この地域のごみ処理を行っている「津島市ほか11町村衛生組合」は、1977年から佐織町に新しい清掃工場を建設中でした。しかし、工場の設備についての安全性に問題があるにもかかわらず、地元住民に対する十分な説明もないまま建設が進められたため、地元住民から名古屋地方裁判所に工事差し止めの仮処分申請が出されました。1979年3月27日、名古屋地裁は次のような決定をしました。

 『当工場は、塩化水素などの汚染物質を排出して公害を生じさせる恐れがあるにもかかわらず、事業者はそのための対策や環境影響評価を行っておらず、地元住民との話し合いも不十分である。とりあえず工事を中止して、事業者と地元住民とで話し合いを行い、適当な善後策を講ずべきである。』

《地元との話し合いから始まったごみ分別》
 この仮処分決定を受けて、1980年3月に海部津島ごみ問題協議会が発足しました。事業者、地元住民、学識経験者によるごみ問題検討委員会が設けられ、工事再開の条件について話し合いが行われた結果、工場の操業に関しては、以下のようなことが取り決められました。焼却炉は1基のみを使用し、1基は常に予備炉とすること。一日あたりの焼却量は150トンまでとすること。期間は開始から13年とすること。これを実現可能にするため考えられたのが、ごみの分別収集でした。ごみを生ごみ、プラスチックごみ、資源ごみ(ビン・缶)、粗大ごみ、埋め立てごみ、焼却ごみに分別する。生ごみの一部はたい肥化処理する。プラスチック類は焼却せず、加熱加圧して減容し埋め立て処理する。また、排ガス処理対策として、新たにバグフィルターを取り付けることも決められました。ごみを分別することで焼却ごみの量を減らし、有害ガスの発生を抑制することにしたのです。1983年9月4日、衛生組合と地元住民の間で、「公害防止協定」と「清掃工場操業に関する同意書」が結ばれ、1984年4月1日より清掃工場は稼働しています。
 迷惑施設の建設では、地元で反対運動が起きても、建設が強行されてしまう場合もあります。佐織工場の場合は、住民が煩雑な手続きをいとわず、裁判という手段をとったこと、組合側も仮処分決定を受け入れて話し合いに応じたことに大きな意義があったといえます。これにより問題が改善され、大きな公害の発生も防ぐことができたと思われます。

 ごみの分別収集は当時としてはめずらしく、大変画期的な方法でした。しかし、ごみ処理のシステムがどれだけ整っても、ごみを出す側がきちんと分別しなければ無意味です。各市町村では、住民に対して説明会を開くなどして理解と協力を求めました。住民にとっては、それまで何気なく出していたごみを、指定どおりに分別しなければならなくなったので、初めはかなりとまどいがあったと思いますが、ごみに対する意識を変えるきっかけにもなったようです。現在、この地域のごみの発生量は愛知県の平均よりもかなり低くなっていて、清掃工場もかなりいい状態で運転されています。
 同意書では、操業後遅くとも8年以内に他の地域で清掃工場用地を取得し、新清掃工場建設の準備に着手することになっていて、13年を経過した時点でなお稼働している場合には、使用機器の電源を切断することも取り決められていました。しかし、移転先がなかなか決まらないまま期限切れとなり、現在は地元住民の同意により使用が延長されています。難航した移転先は、弥富町の鍋田干拓に決まり、新清掃工場の建設が具体化されつつあります。


                 《新清掃工場建設計画の問題点》
 この新清掃工場について、いろいろな問題があります。まず第1にその規模です。新工場は110トン炉が3基で、現在の佐織工場(150t×2基)とほぼ同規模同型の炉が採用されることになっています。「容器包装リサイクル法」により、2001年からPET以外のプラスチック、段ボール、その他の紙製容器包装物は、事業者が引き取って再商品化する義務が生ずるため、自治体が焼却処理しなくてはならないごみは減るはずです。将来の人口増を考えたとしても、300トンの炉が必要なのか。愛知県はダイオキシン対策として県下を何ブロックかに分け、高温連続炉によるごみの広域処理を進める計画ですが、これに見合う規模が必要であることも関係しています。第2に、これまで埋め立て処理してきたプラスチック類を、混焼する計画であることです。ダイオキシンも含めて、発生する有害物質は安全基準を越えないので、問題ないというのが衛生組合の考えです。一方、自治体としては、埋め立てのための最終処分場の確保が困難であるため、かさばるプラスチックごみは埋め立て処理せず、焼却したいというのが本音です。最近、ごく微量でも生態系に影響を及ぼすものとして、環境ホルモンが大きな問題になっています。化学物質の作用については、未知のことも多いので、大量のプラスチックを燃やしても絶対安全だという保証などできないはずです。だからこそこれまで、プラスチックを分別し焼却をしないできたのに、これを止めてしまえば、今まで私たちがやってきたことは何だったのかということになります。第3に、焼却によって発生する熱を利用して発電する計画であることです。これらの問題点は互いに関連していて、発電するためには大量のごみが必要であり、高温を維持するためにはプラスチックの混焼も必要です。
 分別収集が始まって15年以上が経過したことで、住民の側にも変化が起きています。ごみに対する意識を持って、きちんと分別する人も多いのですが、転居してきた人に対する説明が十分でないことや、以前からの住民の中にもいい加減な分別しかしない人もいて、ごみのステーションはかなり混乱しています。今後、新清掃工場が稼働して、高温維持や発電のために大量のごみが必要になり、プラスチックも分別しなくてよくなれば、住民はごみの減量などまったく意識しなくなります。地球環境の破壊は進む一方であるにもかかわらず、更に破壊し続けることになってしまいそうです。ダイオキシンの発生抑制は大事ですが、それには何よりもまず、ごみの減量をもっと進めるべきではないかと思います。かつて、ごみ処理先進地といわれたこの地域ですが、今後は、ごみ処理後進地になってしまうのかもしれません。

<< 参考資料 >>
 98年3月、プラスチック減容固化をしていた飛島工場は老朽化により閉鎖され、市町村は独自でプラスチックを処理しなくてはならなくなった。燃すことはもちろん有機物が付着しているので安定型処分場(素掘り)に入れることもできない。そんな折り、このような事件が新聞で報道された。弥富町・佐屋町・蟹江町がプラスチックごみ(一般廃棄物)を三重県の業者に委託処理していたところ、違法な埋立てを行ったということで業者が許可取り消しになったのである。自治体は、委託したごみを引き取ることになるそうである。他の自治体では、仮置き場を設置し、行き先の決まらないゴミを山積みにしている所もある。このような差し迫った状態になっているのに、この事実も、住民へのゴミ減量や店舗への過剰包装を控えるような呼びかけもされないのは不思議でならない。弥富新工場が動き出すまで山積みを続けるのだろうか?衛生上の問題も気になるところだ。(吉川)
 
 
 
 ★ 法的手続きから見た「藤前干潟問題」★
 −−− 名古屋市の土地取得の経過について −−−        
          
 「藤前干潟は守られる!?」と期待できるような報道が連日聞こえてきます。環境への影響からの評価が中心に論議されていますが、ちょっと変わった面から藤前問題を考えてみようと、名古屋市が土地取得した経過に問題ありと訴訟中の「オンブズマン愛知・事務局」にその問題点を尋ねてみました。

◇ 名古屋市の買った土地に、所有権はあるのか? 
(疑問1)藤前干潟は海面下の土地で、引き潮の際に干潟が現れる土地であり、
     所有権の成立に疑問がある。
 海面下の土地については、愛知県田原湾の埋立て訴訟で最高裁の判例(S61年12月)がある。判例によると「海は、社会通念上、海水の表面が最高高潮面に達したときの水際線をもって陸地から区別されている」とのことで、原則として海没地に所有権は成立しないと言っている。そうすると藤前干潟も原則として所有権は成立しないこととなり、もし例外として所有権が認められる場合(かつて陸であったこと等)に該当しないときは、名古屋市は所有権の無い土地を買ったことになる。
 その後の調査により、図書館や県の公文書館にも藤前干潟が陸地であったことを証明する古図や地図は1枚もなかった。昔から海ならば、海は国の物で私有権は認めらない。
   
◇ 名古屋市は、所有権を放棄する土地をなぜ買ったのか? 
(疑問2)所有権放棄を目的として土地購入をしたこと。
 「公有水面埋立法」では、水面が国の所有であることが条件で許可される。名古屋市は所有権を放棄しないと埋立てができないとわかっていて購入した。
   ※公有水面
     公有水面埋立法は、「公有水面とは河・海・湖・沼その他の公共の用に供
     する水流または水面で、国の所有に属する」と定め、自治体が海などを埋
     め立てる時は、埋立てが完了し、公有水面でなくなってから所有権を設定
     している。

◇ 名古屋市は、こんな高額な土地をなぜ買ったのか? 
(疑問3)土地の購入価格が高すぎるのではないか? 価格の決定は何を基準
     に行われたのか? なぜ埋立てをしない土地まで購入したのか?
 名古屋市が購入する前段階として、数年前に「名古屋市土地開発公社」が購入。同公社が購入のための融資を受けたが、その利息を無条件に上乗せし名古屋市は57億円で購入している。埋立ては全面積ではなく、不要な土地も購入している。

◇ 名古屋市の買った土地(字千鳥)が、藤前干潟だと言えるのか?
(疑問4)名古屋市は公図の無い土地を買った。
 名古屋市が57億円も出して買った土地は、登記はされているが公図のない土地です。一般的には、その土地の場所を示す公図が法務局にあるはず。つまり、名古屋市が買った土地が藤前干潟であるとは言い切れないということ。
実際に、名古屋市は埋立て申請免許の取得のため、名古屋法務局で所有権を放棄しようとしたが、公図がなく場所が特定できないため手続きできずに終わっている。

(疑問5)所在不明の幽霊土地?
 藤前干潟は、大字藤高新田字千鳥684番地1〜9、685番地1〜3ということになっているが、千鳥という地名はここにしかなく、1〜683番地・686番地以降の番地の場所もない。また、「大字藤高新田」は「大字藤高前新田」の北側にあり、藤前地図干潟は「大字藤高前新田」の南側の海にある。つまり一つの大字の間に他の大字が入ることになってしまう。地名の付け方からしてあり得ないことである。まだ理由はいろいろあるが、字千鳥の土地(名古屋市購入の土地)と藤前干潟の土地とは別の土地であるかもしれないとオンブズマン愛知は疑っている。

 古い地図や資料などを拝見しながら説明をしていただきました。法律のことで一度聞いただけではなかなか難しいお話でしたが、 






 

@ 名古屋市は「私有地として所有権のある土地だ」と購入しておきながら、埋め立てる際には「ここは所有権の無い海だ」と矛盾した主張をしている。
A 購入した土地は、登記簿に記されているだけで、その地名がどこにあるかを特定する公図も地図もない。
B 購入価格が高すぎる。
 
 
以上、3つの大きな問題があると私なりに理解しました。
 聞けば聞くほど「名古屋市は何故このようないわく付きの土地を購入したのか?」また、自治体の土地購入のしかたについても「これって税金の無駄使いじゃないの?」と、何だかすっきりしない気分で帰ってきました。(吉 川)     

 
あいちの環境を考える仲間たち・全体目次へ
「あいちゴミ仲間ネットワーク会議」のページ・トップへ
 
 
このページのURL: http://www4.justnet.ne.jp/~mituko/
開設: 98/12/01
 
問い合わせ先 : mituko@ma4.justnet.ne.jp